四類感染症
(1)アメーバ赤痢
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から該当疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの。
[備 考]
検便は場合によって1回の検査に留めず、連続3日間程度の集中検査で検出精度を高める措置が求められる。
(2)エキノコックス症
[定 義]
エキノコックス(Echinococcus)による感染症で、単包条虫(Echinococcus granulosus)と多包条虫(Echinococcus
multilocularis)の2種類がある。
[臨床的特徴]
ヒトへの感染はキツネやイヌなどから排泄された虫卵に汚染された水、食べ物、埃などを経口的に摂取した時に起こる。体内に発生した嚢胞は緩慢に増大し、周囲の臓器を圧迫する。多包虫病巣の拡大は極めてゆっくりで、肝臓の腫大、腹痛、黄疸、貧血、発熱や腹水貯留などの初期症状が現れるまで、成人では通常10年以上を要する。放置すると約半年で腹水がたまり、やがて死に至る。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの。
(3)急性ウイルス性肝炎
[定 義]
ウイルス感染が原因と考えられる急性肝炎(A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、その他のウイルス性肝炎)である。慢性肝疾患、無症候性キャリア及びこれらの急性増悪例は含まない。
[臨床的特徴]
一般に全身倦怠感、感冒様症状、食思不振、悪感、嘔吐などの症状で急性に発症して、数日後に褐色尿や黄疸をともなうことが多い。発熱、その他の全身症状を呈する発病まもない時期には、感冒あるいは急性胃腸炎などと類似した症状を示す。
臨床病型は、黄疸をともなう定型的急性肝炎のほかに、顕性黄疸を示さない急性無黄疸性肝炎、高度の黄疸を呈する胆汁うっ滞性肝炎、急性肝不全症状を呈する劇症肝炎などに分類される。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって検査所見による診断がなされたもの
1)A型肝炎
・血清抗体の検出
例、血清中のIgM・HA抗体が陽性のもの
2)B型肝炎
・血清抗体の検出
例、患者血清中のIgM・HBc抗体が陽性のもの
(キャリアの急性憎悪例は含まない)
3)C型肝炎
・抗原の検出
例、HCV抗体陰性で、HCV・RNAまたはHCVコア抗原が陽性のもの
・血清抗体の検出
例、患者ペア血清で、第2あるいは第3世代HCV抗体の明らかな抗体価上昇を認めるもの
4)その他のウイルス性肝炎
HDV、HEVなど上記以外の肝炎ウイルスによる急性肝炎や、その他の非特異的ウイルスによる急性肝炎
・病原体検査や血清学的診断によって、急性ウイルス性肝炎と推定されるもの。
(この場合には、病原体の名称についても報告すること)
○上記の急性ウイルス性肝炎の報告のための基準を満たすもので、かつ、劇症肝炎となったものについては、報告書の「症状」欄にその旨を記載する。劇症肝炎については、以下の基準を用いる。
(4)黄熱
[定 義]
フラビウイルス科に属する黄熱ウイルスの感染によるウイルス性出血熱である。南米やアフリカの熱帯地域にみられる。
[臨床的特徴]
潜伏期間は3~6日間で発症は突然である。悪寒または悪寒戦慄とともに高熱を出し、嘔吐、筋肉痛、出血(鼻出血、歯齦出血、黒色嘔吐、下血、子宮出血)、蛋白尿、比較的徐脈、黄疸等を来す。普通は7~8病日から治癒に向かうが、重症の場合には乏尿、心不全、肝性昏睡などで、5~10病日に約10%が死亡する。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法により病原体診断や血清学的診断がなされたもの。
・病原体の検出
例、ウイルスの分離など
・病原体の遺伝子の検出
例、血液からのPCR法による検出など
・病原体に対する抗体の検出
例、黄熱IgM抗体の検出
ペア血清を用いたプラック減少中和試験など
(5)オウム病
[定 義]
クラミジアChlamydia psittaci を病原体とし、オウムなどの愛玩用のトリからヒトに感染し、肺炎などの気道感染症を起こす疾患である。
[臨床的特徴]
1~2週間の潜伏期の後に、突然の発熱で発病する。軽い場合はかぜ程度の症状であるが、老人などでは重症になることが多い。初期症状として悪寒を伴う高熱、頭痛、全身倦怠感、食欲不振、筋肉痛、関節痛などがみられる。呼吸器症状として咳、粘液性痰などがみられる。胸部レントゲンで広範な肺病変はあるが理学的所見は比較的軽度である。重症になると呼吸困難、意識障害、DICなどがみられる。発症前にトリとの接触があったかどうかが報告のための参考になる。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの。
・病原体の検出
例、痰、血液、剖検例では諸臓器などからの病原体の分離など
・病原体の遺伝子の検出
例、PCR法、PCR-RFLP法など
・病原体に対する抗体の検出
例、間接蛍光抗体(IF)法で抗体価が4倍以上(精製クラミジア粒子あるいは感染細胞を用いた場合は種の同定ができる)など
(6)回帰熱
[定 義]
シラミ或いはヒメダニ(Ornithodoros属:ヒメダニ属)によって媒介されるスピロヘータ(回帰熱ボレリア)感染症である。コロモジラミ媒介性Borrelia
recurrentis やヒメダニ媒介性B.duttonii 等がヒトに対する病原体である。
[臨床的特徴]
菌血症による発熱期、菌血症を起こしていない無熱期を3ないし5回程度繰り返す、いわゆる回帰熱を主訴とする。感染後5~10日を経て菌血症による頭痛、筋肉痛、関節痛、羞明、咳などをともなう発熱、悪寒がみられる(発熱期)。またこのとき点状出血、紫斑、結膜炎、肝臓や脾臓の腫大、黄疸もみられる。発熱期は3~7日続いた後、一旦解熱する(無熱期)。無熱期では血中から菌は検出されない、発汗、倦怠感、時に低血圧や斑状丘疹をみることもある。この後5~7日後再び発熱期にはいる。
上記症状以外での肝炎、心筋炎、脳出血、脾破裂、大葉性肺炎などがみられる場合もある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの。
・病原体の検出
例、発熱期の血液からの分離培養
暗視野顕微鏡下鏡検での病原体の確認など
・病原体の抗原の検出
例、スメアの観察(蛍光抗体法)など
(7)Q熱
[定 義]
リケッチアの一種であるCoxiella burnetii の感染によって起こる動物由来感染症である。
[臨床的特徴]
急性感染ではインフルエンザ様で突然の高熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感、眼球後部痛の症状で始まる。未治療の場合、有熱期間は5~57日とされるが、多くは14日以内に解熱する。肺炎や肝機能障害を起こすこともあるが、予後は一般に多い。慢性感染では心内膜炎を起こし死亡率が高くなる。急性症例の20~40%に慢性疲労症候群に類似した症状がみられたという報告もある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの。
・病原体の検出
例、血液などからの病原体の分離など
・病原体の遺伝子の検出
例、PCR法など
・病原体に対する抗体の検出
例、間接蛍光抗体(IF)法で抗体が4倍以上の上昇など
(8)狂犬病
[定 義]
ラブドウイルス科に属す狂犬病のウイルスの感染による神経疾患である。
[臨床的特徴]
狂犬病は狂犬病ウイルスを保有するイヌ、ネコおよびコウモリ、キツネ、スカンク、コヨーテなどの野生動物に咬まれたり、引っ掻かれたりして感染し、発症する。潜伏期は1~3ヵ月で、まれに1年以上に及ぶ。臨床的には咬傷周辺の知覚異常、疼痛、不安感、不穏、頭痛、発熱、恐水発作、麻痺と進む。発症すると致命的となる。
感染動物の唾液中にはウイルスが存在していることがある。米国ではアライグマやコウモリにおける狂犬病の増加が問題となっているが、狂犬病ウイルス感染動物との接触が明らかでないヒトの感染事例が時々報告され、コウモリが原因と推測される場合がある。ワクチン接種により防御免疫を確立できる。狂犬病ウイルス暴露後であっても、ワクチン接種により発症予防が可能である。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断より、症状や所見から該当疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの。
・病原体の検出
例、唾液からのウイルスの分離
脳の剖検によって得られた脳組織および脳乳剤を用いた、乳のみマウス、マウス神経芽腫細胞への接種試験によるウイルス分離など
・病原体の抗原の検出
例、角膜塗沫標本、頸部の皮膚、気管吸引材料および唾液腺の生検材料からの直接蛍光抗体(FA)法などによる検出
死後脳の剖検によって得られた脳組織および脳乳剤からの蛍光抗体(FA)法によるウイルス抗原の検出など
・病原体の遺伝子の検出
例、唾液、髄液などからのRT-PCR法
脳の剖検によって得られた脳組織および脳乳剤からのRT-PCR法など
・病原体に対する抗体の検出
例、Fluorecent Focus Inhibition Test、ELISA法など
(注)血中抗体価は治療のためのガンマグロブリン、ワクチン投与により上昇するため診断価値が少ない。髄液中の高い抗体価は診断の目安となる。
(9)クリプトスポリジウム症
[定 義]
クリプトスポリジウム属原虫(Cryptosporidium spp.)のオーシストを経口接種することによる感染症である。
[臨床的特徴]
潜伏期は4~5日ないし10日程度と考えられ、無症状のものから、食思不振、嘔吐、腹痛、下痢(水様性下痢や粘血便)などを呈するものまで様々である。患者の免疫力が正常であれば通常は数日間で自然治癒するが、エイズなどの各種の免疫不全者には重篤な感染を起こすことがあり、1日に3~5リットル、時に10リットルをこえる下痢によって脱水死することもある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から該当疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの。
・病原体の検出
例、糞便などからの鏡検による原虫(オーシスト)の証明など
[備 考]
世界的に広く分布し、本原虫による水道水の汚染が問題となっている。また、米国等ではエイズ患者の重篤な合併症として注目されている。
(10)クロイツフェルト・ヤコブ病
[定 義]
クロイツフェルト・ヤコブ病(以下、「CJD」という。)は、脳内に異常なプリオン蛋白(蛋白性感染粒子、プリオン、proteinaceous infectious
particle、prion)が蓄積し、脳が海綿状となる「伝達性海綿状脳症(transmissible spongiform encephalopathy、TSE)」又は「プリオン病」と呼ばれる疾患の代表的な疾患。
[臨床的特徴]
本疾患の有病率は100万人に1人前後、その8割は弧発性CJDで、地域差、男女差はない。発病は50~70歳代が多い。約2割に遺伝性CJDがあり、発病が早い(40歳代)ものもある。また、医原性感染が疑われるものに、ヒト由来脳下垂体製剤(成長ホルモン等)、ヒト乾燥硬膜移植等がある。弧発性CJDでは、初老期以降に不定の精神・神経症状が生じ、急速に増悪し、数ヶ月で無動性無言状態となり、全経過は1~2年といわれている。家族性CJDでは、プリオン蛋白遺伝子の変異に応じて臨床症状、経過が異なる。この場合は、静脈血から遺伝子診断が可能である。新変異型CJDは、近年、英国で報告され、20歳代の若年に発症し、不安、感覚障害等で初発し、経過が従来のCJDよりやや長い。この新変異型CJDは、異常なプリオン蛋白の泳動パターンが牛海綿状脳症(狂牛病)のものと類似していることが指摘されている。この他、亜型として、GSS(ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群、Gerstmann-Straussler-Scheinker
syndrome)、FFI(致死性家族性不眠症、Fatal Familial Insomnia)がある。
[報告のための基準]
I 弧発性CJD
・ | 疑い(possible)上記1、2の両方を満たす症例。 |
・ | ほぼ確実(probable)上記1~3をすべて満たす症例。 |
・ | 確実(definite)上記4を満たす症例。 |
II 家族性CJD
III 新変異型CJD
表1 CJD(弧発症、家族性、新変異型)と鑑別を要する疾患
IV GSS(ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群)
表2 GSSと鑑別を要する疾患
V FFI(致死性家族性不眠症)
表3 FFIと鑑別を要する疾患
[備 考]
本診断基準による「疑い」は、それぞれの条件に該当する症例である。従って、「いわゆる疑似症」ではないので、留意されたい。
(11)劇症型溶血性レンサ球菌感染症
[定 義]
突発的に発症し、急激に進行するA群レンサ球菌による敗血症性ショック病態である。
[臨床的特徴]
初発症状は咽頭痛、発熱、消化管症状(食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢)、全身倦怠感、低血圧などの敗血症症状、筋痛などであるが、明らかな前駆症状がない場合もある。後発症状としては軟部組織病変、循環不全、呼吸不全、血液凝固症状、腎肝症状などの多臓器不全を来し、日常生活を営む状態から24時間以内に多臓器不全が完結する程度の進行を示す。A群レンサ球菌による軟部組織炎、壊死性筋膜炎、上気道炎・肺炎、産褥熱は現在でも致命的となりうる疾患である。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、病状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の3つの基準を全て満たすもの
(鑑別を要する病態)
(12)後天性免疫不全症候群
[定 義]
レトロウイルスの一種であるヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus;HIV)の感染によって免疫不全が生じ、日和見感染症や悪性腫瘍が合併した状態。
感染からエイズ発症まで通常約10年の無症候期がある。
感染症新法における発生動向調査においては、HIV感染症を診断した時点から報告することが求められている。
[臨床的特徴]
HIVに感染した後、CD4陽性リンパ球数が減少し、無症候性の時期(無治療で約10年)を経て、生体が高度の免疫不全症に陥り、日和見感染症や悪性腫瘍が生じてくる。
(サーベイランスのためのHIV感染症/AIDS診断基準(厚生省エイズ動向委員会、1999)抜粋)
[報告のための基準]
(サーベイランスのためのHIV感染症/AIDS診断基準(厚生省エイズ動向委員会、1999)抜粋)
I HIV感染症の診断
(1) | 抗体確認検査(Western Blot法、蛍光抗体法(IFA)等) |
(2) | HIV抗原検査、ウイルス分離及び核酸診断法(PCR等)等の病原体に関する検査(以下、「HIV病原検査」という。) |
(1) | HIV病原検査が陽性 |
(2) | 血清免疫グロブリンの高値に加え、リンパ球数の減少、CD4陽性Tリンパ球数の減少、CD4陽性Tリンパ球数/CD8陽性Tリンパ球数比の減少という免疫学的検査所見のいずれかを有する。 |
II AIDSの診断
Iの基準を満たし、IIIの指標疾患(Indicator Disease)の1つ以上が明らかに認められる場合にAIDSと診断する。
III 指標疾患(Indicator Disease)
A.真菌症
(1) | 全身に播種したもの |
(2) | 肺、頸部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの |
(1) | 全身に播種したもの |
(2) | 肺、頸部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの |
B.原虫症
E.腫瘍
[備 考]
報告のための基準は、サーベイランスのための診断基準であり、治療の開始等の指標となるものではない。近年の治療の進歩により、一度指標疾患(Indicator
Disease)が認められた後、治療によって軽快する場合もあるが、発生動向調査上は、報告し直す必要はない。しかしながら、病状に変化が生じた場合(無症候性キャリア→AIDS、AIDS→死亡等)には、必ず届け出ることが、サーベイランス上重要である。
なお、報告票上の記載は、
1)無症候性キャリアとは、Iの基準を満たし、症状のないもの
2)AIDSとは、IIの基準を満たすもの
3)その他とは、Iの基準を満たすが、IIの基準を満たさない何らかの症状があるもの
を指すことになる。
(13)コクシジオイデス症
[定 義]
カリフォルニア州、アリゾナ州、ニューメキシコ州をはじめとする米国西南部各州、メキシコの太平洋側の半乾燥地帯、ベネズエラのコロ地方、アルゼンチンのパンパ地域に発生する風土病で、原因菌は真菌でCoccidioides
immitisである。
[臨床的特徴]
南北アメリカ、特にカリフォルニア州のサンホアキン渓谷で患者が多発している。強風や土木工事などにより土壌中のC.immitis の分節型分生子が土埃と共に空中に舞い上がり、これを吸入することにより肺感染が起こり、そのうち約0.5%の患者が全身感染へと進み、約半数が死亡する最も危険な真菌症である。特に皮膚病巣は特徴があり、結節、潰瘍を繰り返し、花キャベツ状の腫瘤を形成する。
[報告のための基準]
○ 診断にした医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの。
・病原体の検出
例、喀痰などからの分離・培養と菌の分離(鏡検)など
(14)ジアルジア症
[定 義]
ジアルジア(消化管寄生虫鞭毛虫の一種)による原虫感染症である。糞便中に排出された原虫により食物や水が汚染されることによって経口感染を起こす。
[臨床的特徴]
糞便中に排出された原虫により食物や水が汚染されることによって経口感染を起こす。健康な者の場合には無症状のことも多いが、食欲不振、腹部不快感、下痢等の症例を示すこともあり、免疫不全者では重篤となることもある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの。
・病原体の検出
例、糞便または十二指腸液などから原虫の証明(鏡検)など
[備 考]
世界的に広く分布し、熱帯・亜熱帯における主要な下痢疾患の病原体である、我が国においても昭和20年代には国民の5~10%が感染していたが、水道の普及とともに減少した。現在まで水道水による感染例がないが、河川水等よりの検出が報告されている。
(15)腎症候性出血熱(HFRS)
[定 義]
ハンタウイルス(ブニヤウイルス科ハンタウイルス属)による熱性・腎性疾患で、極東アジアから東欧、北欧にかけて広く分布する。HFRSウイルスとも称する。
[臨床的特徴]
ネズミに咬まれたり、排泄物(エアロゾルの吸入を含む)に接触することによりヒトにウイルスが伝播する。このウイルスはヒトに感染すると状況により重篤な全身感染、あるいは腎疾患を生じ、以下の型が知られている。
重症アジア型:ドブネズミ、高麗セスジネズミが媒介する。潜伏期間は10~30日で、発熱で始まる有熱期、低血圧期(ショック)(4~10日)、乏尿期(8~13日)、利尿期(10~28日)、回復期に分けられる。全身皮膚に点状出血斑が出ることがある。発症から死亡までの時間は4~28日で尿素窒素は50~300mgに達する。常時高度の蛋白尿、血尿を伴う。
軽症スカンジナビア型:ヤチネズミによる。ごく軽度の発熱、蛋白尿、血尿がみられるのみで、きわめてまれに重症化する。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの。
・病原体の検出
例、急性期の血液、尿からのウイルスの分離など
・病原体の遺伝子の検出
例、PCR法など
・病原体に対する抗体の検出
例、血清抗体の検出(ELISA、免疫蛍光法)など
(16)髄膜炎菌性髄膜炎
[定 義]
Neisseria meningitidis による急性化膿性髄膜炎で、ヒトからヒトへ飛沫感染し、ときに流行性発症があるので流行性髄膜炎ともいわれる。
[臨床的特徴]
突然の発症がみられ(潜伏期は2~4日)、髄膜炎症状(頭痛、発熱、痙攣、意識障害、髄膜刺激症状、乳児では大泉門膨隆)を示す。点状出血斑がみられることもある。敗血症例ではショックならびにDICを来し(Waterhouse-Friderichsen症候群)、細菌性の関節炎をともなうこともある。世界各地に散発性または流行性に発生し、温帯では寒い季節に、熱帯では乾季に多発する。本邦では稀である。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの。
・病原体の検出
例、髄液からの菌の分離・同定など
[備 考]
咽頭培養陽性となっても、この菌による感染症とは断定できない(健康者の2~4%の鼻咽腔に存在)。主としてA、B、C血清群によって起こされる。
(17)先天性風疹症候群
[定 義]
風疹ウイルスの経胎盤感染によって起こる先天異常である。
[臨床的特徴]
先天異常の発生は妊娠週齢と明らかに相関し、妊娠12週までの妊娠初期の初感染に最も多くみられ、20週を過ぎるとほとんどなくなる。三徴は、難聴、白内障、動脈管開存症であるが、その他知能障害、小頭症、緑内障、角膜混濁、脈絡網膜炎、小眼球、斜視、心室中隔欠損症などを来しうる。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の1)と2)の基準を両方とも満たすもの
1)臨床症状による基準
「Aから2項目以上」または、「Aから1つと、Bから2つ以上」若しくは「Aの(2)または(3)と、B(1)」
A.(1)先天性白内障、または緑内障
(2)先天性心疾患(動脈管開存、肺動脈狭窄、心室中隔欠損、心房中隔欠損など)
(3)感音性難聴
B.(1)網膜症
(2)骨端発育障害(X線診断によるもの)
(3)低出生時体重
(4)血小板減少性紫斑病(新生児期のもの)
(5)肝脾腫
2)病原体診断等による基準
以下のいずれかの一つを満たし、出生後の風疹感染を除外できるもの
1) | 皮膚炭疽:全体の95~98%を占める。潜伏期は1~7日である。初期病変はニキビや虫さされ様で、かゆみを伴うことがある。初期病変周囲には水疱が形成され、次第に典型的な黒色の痂皮となる。およそ80%の患者では痂皮の形成後7~10日で治癒するが、20%では感染はリンパ節および血液へと進展し、敗血症へと進展し致死的である。 |
2) | 肺炭疽:上部気道の感染で始まる初期段階はインフルエンザ等のウイルス性呼吸器感染や軽度の気管支肺炎に酷似しており、軽度の発熱、倦怠感、筋肉痛等を訴える。数日して第2の段階へ移行すると突然呼吸困難、発汗およびチアノーゼを呈する。この段階に達すると通常、24時間以内に死亡する。 |
3) | 腸炭疽:本症で死亡した動物の肉を摂食した後2~5日で発症する。腸病変部は回腸下部および盲腸に多い。初期症状として悪心、嘔吐、食欲不振、発熱があり、次いで腹痛、吐血をあらわし、血液性の下痢を呈する場合もある。毒血症へと移行すると、ショック、チアノーゼを呈し死亡する。腸炭疽の死亡率は25~50%とされる。 |
4) | 髄膜炭疽:皮膚炭疽の約5%、肺炭疽の2/3に引き続いて起こるが、稀に初感染の髄膜炭疽もある。髄膜炭疽は治療を行っても、発症後2~4日で100%が死亡する。 |
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの
例、病巣組織や血液からの菌の分離・同定(鏡検・培養)と、分離した菌のガンマファージテスト、パールテスト、アスコリーテストによる確認など |
(19)ツツガムシ病
[定 義]
ツツガムシ病リケッチア(Orientia tsutsugamusi)に感染した「つつが虫(恙虫)」の幼虫がヒトを刺すことによって経皮感染する急性感染症である。
[臨床的特徴]
5~14日の潜伏期の後に、全身倦怠感、食欲不振とともに頭痛、悪寒、発熱などを伴って発症する。体温は段階的に上昇し数日で40度にも達する。刺し口の所属リンパ節は発熱する前頃から次第に腫脹する。第3~4病日より不定型の発疹が出現するが、発疹は顔面、体幹に多く四肢には少ない。治療が適切に行われると早期に消退する。重症になると肺炎や脳炎症状を来す。刺し口は皮膚の柔らかい隠れた部分に多い。発生は初夏および晩秋から冬で、初夏の発生は主として東北・北陸である。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの
(20)デング熱
[定 義]
フラブウイルス科に属するデングウイルス感染症で、蚊によって媒介される。
[臨床的特徴]
デング熱:2~5日(多くは3~7日)の潜伏期の後に突然の高熱で発症。頭痛、眼窩痛、顔面紅潮、結膜充血を伴う。発熱は2~7日間持続(ニ峰性であることが多い)。初期症状に続いて全身の筋痛、骨関節痛、全身倦怠感を呈する。発症後3~4日後胸部、体幹からはじまる発疹が出現し、四肢、顔面へ広がる。症状は1週間程度で回復する。血液所見では軽度の白血球減少、血小板減少がみられる。出血やショック症状を伴う重症型としてデング出血熱*があり、全身管理が必要となることもある。ヒトからヒトへの直接感染はないが、熱帯・亜熱帯(特にアジア、オセアニア、中南米)に広く分布する。日本国内での感染はないが、海外で感染した人が国内で発症することがある。
*デング出血熱:デング熱とほぼ同様に発症経過するが、解熱の時期に血液漏出や血小板減少による出血傾向に基づく症状が出現し、死に至ることもある
。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの
・病原体の検出
例、血液等からのウイルスの分離など
・病原体の遺伝子の検出
例、PCR法など
・病原体に対する抗体の検出
例、血清中のデングウイルス特異的IgM抗体の検出
特異的IgG抗体価のペア血清での4倍以上の上昇など
○ 上記の基準に加えて、下記の4つの基準を全て満たした場合にはデング出血熱として報告する。
(1)2~7日持続する発熱(時に2峰性のパターンをとる)
(2)血管透過性亢進による以下の血漿漏出症状のうち1つ以上
・ヘマトクリットの上昇(補液なしで同性、同年代の者に比べて20%以上の上昇)
・ショック症状の存在
・胸水、腹水の存在、血清蛋白の低下
(3)血小板減少(100,000/mm3以下)
(4)以下の出血傾向のうち1つ以上
・Tourniquetテスト陽性
・点状出血、斑状出血あるいは紫斑
・粘膜あるいは消化管出血、あるいは注射部位や他の部位からの出血
・血便
(21)日本紅斑熱
[定 義]
新型の紅斑熱リッケチア(Rickettsia japonica)による感染症である。
[臨床的特徴]
マダニに刺されることで感染すると考えられている。刺されてから2~8日頃から頭痛、全身倦怠感、関節痛、発熱などを伴って発病する。発熱とほぼ同時に紅色の斑丘疹が四肢末端から求心性に多発する。リンパ節腫脹はあまりみられない。CRP陽性、白血球減少、肝機能異常などはツツガムシ病と同様である。発生は主として夏である。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの
・病原体の検出
例、血液からのリッケチアの分離など
・病原体の遺伝子の検出
例、PCR法など
・病原体に対する抗体の検出
例、間接蛍光抗体法(抗体価の4倍以上の上昇か、IgM抗体上昇)など
[備 考]
昭和59年に新たに見つかった疾患であり、これまでに四国、北九州、千葉などに存在することが分かってきている。
(22)日本脳炎
[定 義]
フラビウイルス科に属する日本脳炎ウイルスの感染による急性脳炎である。ブタが増幅動物となり、蚊が媒介する。
[臨床的特徴]
感染後1~2週間の潜伏期を経て、急激な発熱と頭痛を主訴として発症する。その他、初発症状として全身倦怠感、食欲不振、嘔気、嘔吐、腹痛も存在する。その後、症状は悪化し、項部硬直、羞明、意識障害、興奮性の上昇、仮面様顔貌、筋硬直、頭部神経麻痺、眼振、四肢振戦、不随意運動、運動失調、病的反射が出現する。知覚障害はまれである。発熱は発症4~5日に最も高くなり、発症後1週間程度で死亡する例が多い。熱はその後次第に低下する。致命率は約25%、患者の50%は後遺症を残して回復、25%はほぼ完全に回復する。
[報告するための基準]
○ 診断した医師の判断より、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの
・病原体の検出
例、血清、髄液からの日本脳炎ウイルスの分離など
・病原体の遺伝子の検出
例、PCR法など
・病原体に対する抗体の検出
例、血清または髄液中の日本脳炎ウイルス特異的IgM抗体の存在
血清抗体価の上昇(IgG抗体価がペア血清で4倍以上の上昇)など
(23)乳児ボツリヌス症
[定 義]
ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が産生するボツリヌス毒素により発症する運動神経・筋の麻痺性疾患である。
[臨床的特徴]
ボツリヌス毒素を産生するボツリヌス菌の芽胞が混入した食品(蜂蜜、コーンシロップなど)を乳児が摂取することにより、嫌気的な環境の腸管内で芽胞が発芽・増殖し、産生される毒素が腸管から吸収されることにより、中枢神経(特に延髄)における神経刺激伝達障害が発生し、四肢の脱力、嚥下障害、呼吸麻痺、複視などの症状が出現し、重症例では死亡する。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの
・病原体及び毒素の検出
例、吐物や腸内容物等からボツリヌス菌の分離と同定と、分離した菌からのボツリヌス毒素の検出など
・病原体の遺伝子の検出
例、患者の糞便から毒素遺伝子のPCR法による検出など
(24)梅毒
[定 義]
スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)の感染によって生じる性感染症である。
[臨床的特徴]
I期梅毒として感染後3~6週間の潜伏期の後のに、感染局所に初期硬結や硬性下疳、無痛性のそけい部リンパ節腫脹がみられる。II期梅毒では、感染後3か月を経過すると皮膚や粘膜に梅毒性バラ疹や丘疹性梅毒疹などの特有な発疹が見られる。
感染後3年以上を経過すると晩期顕症梅毒としてゴム腫、梅毒によると考えられる心血管症状、神経症状、眼症状などが認められることがある。なお、感染していても臨床症状が認められない無症候梅毒もある。
先天梅毒は、梅毒に罹患している母体から出生した児で、胎内感染を示す検査所見のある症例、II期梅毒疹、骨軟骨炎など早期先天梅毒の症状を呈する症例、乳幼児期は症状を示さずに経過し学童期以降にHutchinson3徴候(実質性角膜炎、内耳性難聴、Hutchinson歯)などの晩期先天梅毒の症状を呈する症例がある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって検査所見による診断がなされたもの。
・病原体の検出
発疹からパーカーインク法などでT.pallidumが認められた場合
・血清抗体の検出(以下の(1)と(2)の両方に該当する場合)
(1)カルジオリピンを抗原とする以下のいずれかの検査で陽性のもの
・RPRカードテスト
・凝集法
・ガラス板法
(2)T.pallidumを抗原とする以下のいずれかの検査に陽性のもの
・TPHA法
・FTA-ABS法
○ 無症候梅毒では、カルジオリピンを抗原とする検査で16倍以上陽性かつT.pallidumを抗原とする検査が陽性のもの
○ 先天梅毒は、下記の5つのうち、いずれかの要件をみたすもの
(1)母体の血清抗体価に比して、児の血清抗体価が著しく高い場合
(2)血清抗体価が移行抗体の推移から予想される値を高く超えて持続する場合
(3)TPHA・IgM抗体陽性
(4)早期先天梅毒の症状を呈する場合
(5)晩期先天梅毒の症状を呈する場合
○ 以下の4つに分類して報告する
1.早期顕症梅毒
ア.I期梅毒
イ.II期梅毒
2.晩期顕症梅毒
3.無症候梅毒
4.先天梅毒
(25)破傷風
[定 義]
破傷風梅毒を産生する破傷風菌(Clostridium tetani )が、外傷部位などから組織内に侵入し、嫌気的な環境下で増殖した結果産生される破傷風梅毒による神経刺激伝達障害を起こす。
[臨床的特徴]
外傷部位などで増殖した破傷風菌が産生する毒素により、運動神経終板、脊髄前角細胞、脳幹の抑制性の神経回路が遮断され、感染巣近傍の筋肉のこわばり、顎から頸部のこわばり、開口障害、四肢の強直性痙攣、呼吸困難(痙攣性)、刺激に対する興奮性の亢進、反弓緊張(opisthotonus)などの症状が出現する。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、外傷の既往と臨床症状などから、破傷風が疑われる場合
なお、感染部位(外傷部位)からの破傷風菌の分離と同定、及び分離菌からの破傷風梅毒の検出がなされれば、病原体診断である旨を報告する。
(26)バンコマイシン耐性腸球菌感染症
[定 義]
バンコマイシン耐性遺伝子(vanA、vanBなど)を保有する腸球菌(VRE)による感染症である。
[臨床的特徴]
主に悪性疾患などの基礎疾患を有する易感染状態の患者において、日和見感染症や術後感染症、カテーテル性敗血症(line sepsis)などを引き起こす。発熱やショックなどの症状を呈し、死亡することもある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの
1)vanA、vanB型
2)vanC型
○ 報告対象
(27)ハンタウイルス肺症候群(HPS)
[定 義]
ブニヤウイルス科、ハンタウイルス属のウイルス(Sin Nombre virus)による急性呼吸器感染症で、現在米国あるいは一部南米の国で発生がある。
[臨床的特徴]
前駆症状として発熱と筋肉痛が100%にみられる。次いで咳、急性に進行する呼吸困難が特徴的で、消化器症状及び頭痛が70%以上に伴う。最もありふれた症状は頻呼吸(100%)、頻拍である。半数に低血圧等を伴う。発熱・悪寒は1~4日続き、次いで進行性呼吸困難、酸素不飽和状態に陥る(肺水腫、肺浮腫による)。早い場合では発熱等発症後24時間以内の死亡も頻繁にみられる。肺水腫等の機序は心性ではない。X線で肺水の貯留した特徴像が出る。死亡率は約60%という報告もある。
感染経路としては、手足の傷口からウイルスに汚染されたネズミの尿、唾液が接触して入る、ネズミに咬まれる、ウイルスを含む尿、唾液により汚染されたほこりを吸い込む(これが最も多い)等による。
媒介動物は、米国ではシカシロアシネズミ(Permyscus maniculatus)がウイルス保有動物として最も一般的である。ウイルスを媒介するこの群のネズミは米国、カナダ、南米(チリ、アルゼンチン等)にも存在する。このネズミとウイルスは日本では見つかっていない(1998)。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの
・病原体の検出
例、ウイルスの分離など
・病原体の遺伝子の検出
例、PCR法など
・病原体に対する抗体の検出
例、免疫蛍光法やELISA法でのIgM、IgGの検出など
(28)Bウイルス病
[定 義]
マカク属のサルに常在するBウイルス(ヘルペス群ウイルス)による熱性・神経性疾患である。
[臨床的特徴]
サルによる咬傷後、症状発現までの潜伏期間は早い場合2日、通常2~5週間である。早期症状としてはサルと接触部位(外傷部)周囲の水疱性あるいは潰瘍性皮膚粘膜病変、接触部位の疼痛、掻痒感、所属リンパ節腫大を来し、中期症状としては発熱、接触部位の感覚異常、接触部位側の筋力の低下あるいは麻痺、眼にサルのの分泌物等の「はね」がとんだ際に結膜炎を来す。晩期には副鼻腔炎、項部強直、持続する頭痛、悪心・嘔吐、脳幹部症状として複視、構語障害、目まい、失語症、交差性麻痺及び知覚障害、意識障害、脳炎症状を来し、無治療での死亡率は70~80%で、生存例でも重篤な神経障害が後遺症としてみられる。
感染経路は実験室、動物園あるいはペットのマカク属サルとの接触(咬傷、擦過傷)及びそれらのサルの唾液、粘液とヒト粘膜との接触(とびはね)の経過があることが重要な点である。また実験室ではサルに使用した注射針の針刺し、培養ガラズ器具による外傷によっても感染する。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの
[備考]
(29)ブルセラ症
[定 義]
本症はウシ、ブタ、ヤギ、イヌおよびヒツジの感染症であるが、原因菌(Brucella abortus、B.suis、B.melitensis、B.rangiferi、およびB.canis)がヒトに感染して発症する。波状熱、マルタ熱、地中海熱などの名前でも呼ばれる。
[臨床的特徴]
感染源は感染動物の組織、乳汁、血液、尿、胎盤、膣排泄物、流産胎児などである。B.canis に感染したイヌの尿も感染源になるとされる。潜伏期間は1~18週、通常2~8週との報告がある。感染によって誘導される所見として比較的共通のものは脾腫、リンパ節特に頸部および鼠径部リンパ節の腫脹、および関節の腫脹と痛みがあり、その他に20~50%の患者に、進行の時期によって泌尿器生殖器症状があらわれる。B.melitensis
の感染では約70%の患者に肝腫大が認められる。本感染による死亡率は一般的に低率であるが、心内膜炎を併発している場合には致死率は上昇し、ヒトのブルセラ症による死亡の多くはこれが原因である。ヒトブルセラ症の3~5%に神経症状や精神神経的な症状との関連性があるとされる。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの
・病原体の検出
例、血液、骨髄その他の組織からの菌の培養・同定など
・病原体に対する抗体の検出
例、試験管凝集反応(1:160倍以上の力価)
補体結合反応、競合酸素抗体法では急性期と寛解期で4倍以上の力価上昇など
[備 考]
国内はかつてウシにおける発生があったが、近年は殆どない。国内ではヒトの感染はほとんどが実験室感染である。
(30)発疹チフス
[定 義]
Rickettsia prowazekiiによる急性感染症で、シラミによって媒介される。
[臨床的特徴]
発熱、頭痛、悪寒、脱力感、手足の疼痛を伴って突然発症する。熱は39~40度に急上昇する。発疹は発熱第5~6病日体幹から全身に拡がるが、顔面、手掌、足底に出現することは少ない。発疹は急速に暗紫色の点状出血斑となる。患者は明らかな急性症状を呈するが、発熱からおよそ2週間後に急速に解熱する。重症例の半数に精神神経症状が出現する。初感染後潜伏感染し、数年後に再発することがある(Brill-Zinsser病)。症状は軽度である。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの
・病原体の検出
例、血液からのリケッチアの分離など
・病原体に対する抗体の検出
例、補体結合(CF)法、酸素抗体(EIA)法など
(31)マラリア
[定 義]
マラリアはPlasmodium 属原虫のPlasmodium vivax(三日熱マラリア原虫)、plasmodium
falciparum(熱帯熱マラリア原虫)、Plasmodium malariae(四日熱マラリア原虫)、Plasmodium
ovale(卵形マラリア原虫)などの単独または混合感染に起因する疾患であり、特有の熱発作、貧血及び脾腫を主徴とする。
[臨床的特徴]
最も多い症状は発熱と悪寒で、発熱の数日前から全身倦怠や背痛、食欲不振などの不定の前駆症状を認めることがある。熱発は間隔をあけて発熱期と無熱期を繰り返す。発熱期は悪寒を伴って体温が上昇する悪寒期(1~2時間)と、悪寒がとれて熱感を覚える灼熱期(4~5時間)に分かれる。典型的には三日熱及び四日熱マラリアでは悪寒期に戦慄を伴うことが多い。発熱期には頭痛、顔面紅潮や嘔気、関節痛などを伴う。その後の発汗・解熱し、無熱期へ移行する。発熱発作の間隔は虫種により異なり、三日熱と卵形マラリアで48時間、四日熱マラリアで72時間である。熱帯熱マラリアでは36~48時間、あるいは不規則となる。他の症状としては脾腫、貧血、血小板減少、低血糖、腎肺機能不全、錯乱などがあげられるが、原虫種、血中原虫数及び患者の免疫状態によって異なる。未治療の熱帯熱マラリアは急性の経過を示し、中枢神経(マラリア脳症)、急性腎不全、重度の貧血、DICや肺水腫を併発して発病数日以内に重症化し、致死的となる。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの
・病原体の検出
例、血液塗沫標本による顕微鏡下でのマラリア原虫の証明と、鏡検による虫種の確認など
・病原体の遺伝子の検出
例、PCR法など
[備考]
診断のため、マラリア原虫の形態保持の観点から採血後は速やかに血液塗沫標本を作製することが強く望まれる。
(32)ライム病
[定 義]
マダニ(Ixodes属)刺咬により媒介されるスピロヘータ(ライム病ボレリア;Borrelia burgdorferi sensulato)感染症である。北米、欧州、ロシア、本邦を含む極東地域で広くみられ、患者は皮膚症状、神経症状、心筋炎など多様な症状を示す。本邦では国内例、輸入例ともに見られる。
[臨床的特徴]
感染初期(stageI)には、マダニ刺咬部を中心として限局性に特徴的な遊走性紅斑を呈することが多い。随伴症状として、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感などのインフルエンザ様症状を伴うこともある。紅斑の出現期間は数日から数週間といわれ、形状は環状紅斑または均一性紅斑がほとんどである。
播種期(stageII)には、体内循環を介して病原体が全身性に拡散する。これにともない、皮膚症状、神経症状、心疾患、眼症状、関節炎、筋肉炎など多彩な症状が見られる。
感染から数か月ないし数年を経て、慢性期(stageIII)に移行する。患者は播種期の症状に加えて、重度の皮膚症状、関節炎などを示すといわれる。本邦では、慢性期に移行したとみられる症例は現在のところ報告されていない。症状としては、慢性萎縮性肢端皮膚炎、慢性関節炎、慢性脳脊髄炎などがあげられる。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの
・病原体の検出
例、生体試料からの分離培養など
・病原体に対する抗体の検出
例、血清のELISA法やWesten Blot法検査など
(33)レジオネラ症
[定 義]
Legionella属菌(Legionella pneumophila)が原因で起こる感染症の総称である。
[臨床的特徴]
在郷軍人病(レジオネラ肺炎)とポンティアック熱が主要な病型である。免疫不全者に感染すると、時に心内膜炎や腹膜炎などの全身の化膿性病変を起こす。臨床症状で他の細菌性肺炎と区別することは困難である。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの
(34)インフルエンザ
[定 義]
インフルエンザウイルス感染による急性気道感染症である。
[臨床的特徴]
上気道炎症状に加えて、突然の高熱、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛を伴うことを特徴とする。流行期(我が国ではおおむね例年11月~3月)にこれらの症状にあったものはインフルエンザと考えられるが、非流行期での臨床診断は困難である。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の4つの基準を全て満たすもの
1.突然の発症
2.38℃を超える発熱
3.上気道炎症状
4.全身倦怠感等の全身症状
なお、非流行期での臨床診断は、他疾患とのより慎重な鑑別が必要である。
○ 上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(35)咽頭結膜炎
[定 義]
発熱・咽頭炎および結膜炎を主症状とする急性のアデノウイルス感染症である。
[臨床的特徴]
潜伏期は5~7日、症状は発熱、咽頭炎(咽頭発赤、咽頭痛)、結膜炎が3主症状である。アデノウイルス3型が主であるが、他に7、11、4型なども本症を起こす。発生は年間を通じてみられるが、さまざまの規模の流行的発生をみる。とくに夏季、プールを介して流行的発生をみるので、プール熱の病名がある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準のすべて満たすもの
1.発熱・咽頭発赤
2.結膜充血
○ 上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(36)突発性発疹
[定 義]
乳幼児がヒトヘルペスウイルス6、7型の感染による突然の高熱と解熱前後の発疹を来す疾患である。
[臨床的特徴]
乳児期とくに6~18か月の間に罹患することが多い。突然、高熱で発症、不機嫌で大泉門の膨隆をみることがある。咽頭部の発赤、とくに口蓋垂の両側に強い斑状発赤を認めることがある。軟便もしくは下痢を伴うものが多く、発熱は3~4日持続した後に解熱する。解熱に前後して紅色の丘疹が出現し、散在性、時に斑状融合性に分布する。発疹は体幹から始まり上肢、頸部の順に広がるが、顔面、下肢には少ない。発疹は1~2日で消失する。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を満たすもの
1.突然に発熱(38℃以上)し、2~4日間持続
2.解熱に前後して体幹部、四肢、顔面の発疹が出現
○ 上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(37)A群溶血性レンサ球菌咽頭炎
[定 義]
レンサ球菌のうち、Lancefieldの血清型分類のA群に分類されるものによる上気道感染症である。
[臨床的特徴]
乳幼児では、咽頭炎、年長児や成人では扁桃炎が現れ、発赤毒素に免疫のない人は猩紅熱といわれる全身症状を呈する。気管支炎を起こすことも多い。リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの二次疾患を起こすこともある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の3つの基準を全て満たすもの
1.発熱
2.咽頭痛、咽頭発赤および頸部リンパ節炎(発疹を伴うこともある)
3.苺舌
○ 上記の基準は必ずしも満たなさにが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(38)百日咳
[定 義]
Bordetella pertussisによって起こる急性の気道感染症である。
[臨床的特徴]
かぜ様症状で始まるが、次第に咳が著しくなり百日咳特有の咳が出始める。この咳込みは、顔を真っ赤にしてコンコンと激しく咳込み、最後にヒューッと音を立てて大きく息を吸う発作でレプリーゼと呼ばれる。嘔吐も伴い、眼瞼の浮腫や顔面の点状出血がみられることがある。
乳児では重症になり、特に新生児がかかると無呼吸となり、致死的になることがある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を全て満たすもの
1.2週間以上持続する咳嗽
2.以下のいずれかの要件のうち少なくとも一つを満たすもの
・スタッカートやレプリーゼを伴う咳嗽発作
・新生児や乳児で、他に明らかな原因がない咳嗽後の嘔吐または無呼吸発作
○ 上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(39)感染性胃腸炎
[定 義]
細菌あるいはウイルスなどの感染性病原体による嘔吐、下痢を主症状とし、その結果種々の程度脱水、電解質喪失症状、全身症状が加わるものである。1才以下の乳児は症状の進行が早い。
[臨床的特徴]
乳幼児に好発し、主症状は嘔吐と下痢であるが、嘔吐または下痢のみの場合、嘔吐の後下痢がみられる場合とさまざまで、症状の程度にも個人差がある。37~38℃の発熱がみられることもある。年長児では嘔気や腹痛がしばしばみられる。嘔吐や下痢、発熱で脱水症状を来すことがあるので注意が必要である。
原因はウイルス感染(ロタウイルス、小型球形ウイルス(SRSV)など)が多く、毎年秋から冬にかけて流行する。また、エンテロウイルス、アデノウイルスによるものや細菌性のものもみられる。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を満たすもの
1.急に発症する腹痛(新生児や乳児では不明)、嘔吐、下痢
2.他の原因によるものの除外
○ 上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(40)風疹
[定 義]
風疹ウイルスによる急性発疹性疾患である。
[臨床的特徴]
潜伏期は2~3週間で、経気道飛沫感染により、冬から春に流行する。症状は、斑状の紅丘疹、リンパ節腫脹(全身とくに頸部、後頭部、耳介後部)、発熱を三主徴とする。リンパ節腫脹は発疹出現数日前に出現し、3~6週間で消退する。発熱は38~39℃で3日程度続くため、三日はしかの病名があるが、無熱のものも存在する。
妊婦の風疹感染が、先天性風疹症候群(出生児に白内障、心疾患、難聴などを来す)の原因となることがある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の3つの基準を全て満たすもの
1.突然の全身性の斑状丘疹状の発疹(maculopapular rash)の出現
2.37.5℃以上の体温
3.リンパ節腫脹
○ 上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(41)水痘
[定 義]
水痘・帯状疱疹ウイルスの初感染による感染症である。
[臨床的特徴]
冬から春の感染症であるが、年間を通じて患者の発生をみる。飛沫あるいは接触感染で感染し、潜伏期は2~3週間である。乳幼児や学童いずれの年齢でも罹患する。母子免疫は麻疹ほど強力ではなく、新生児も罹患することがある。症状は発熱と発疹である。それぞれの発疹は紅斑、紅丘疹、水疱形成、痂皮化を順次約3日で経過するが、次々の発疹が出現するので新旧種々の段階の発疹が同時に混在する。発疹は体幹に多発し、四肢には少ない。発疹は頭皮及び粘膜にも出現する。健康児の罹患は軽症で予後は良好であるが、免疫不全状態の小児の罹患は重症で、致死的経過をとることもある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を満たすもの
1.全身性の丘疹性水疱疹の突然の出現
2.新旧種々の段階の発疹(丘疹、水疱、痂皮)が同時に混在すること
○ 上記の基準は必ずしも満たされないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(42)ヘルパンギーナ
[定 義]
コクサッキーウイルスA群による口峡部に特有の小水疱と発熱を主症状とする夏かぜの一種である。
[臨床的特徴]
潜伏期は2~4日、初夏から秋にかけて、乳幼児に多い。突然の38~40℃の発熱が1~3日間続き、全身倦怠感、食欲不振、咽頭痛、嘔吐、四肢痛などがある場合もある。咽頭所見は、軽度に発赤し、口蓋から口蓋帆にかけて1~5mmの小水疱、これから生じた小潰瘍、その周辺に発赤を伴ったものが数個認められる。コクサッキーウイルスA群1~10、17、22型、まれにコクサッキーウイルスB群、エコーウイルスも病原として分離されることがある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を満たすもの
1.突然の高熱での発症
2.口蓋垂付近の水疱疹や潰瘍や発赤
○ 上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(43)手足口病
[定 義]
主として乳幼児にみられる手、足、下肢、口腔内、口唇に小水疱が生ずる伝染性のウイルス性感染症である。コクサッキーA16型、エンテロウイルス71型のほか、コクサッキーA10型その他によっても起こることが知られている。
[臨床的特徴]
典型的なものでは、軽い発熱、食欲不振、のどの痛み等で始まり、発熱から2日ぐらい過ぎた頃から、手掌、足底にやや紅暈を伴う小水疱が多発し、舌や口腔粘膜に浅いびらんアフタを生じる。この水疱はやや楕円形を呈し、殿部、膝部などに紅色の小丘疹が散在することもある。皮疹は1週間から10日で自然消退するが、ごくまれに髄膜炎や脳炎などが生じることがあるので、発熱や嘔吐、頭痛などがある場合は注意を要する。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を満たすもの
1.手のひら、足底または足背、口腔粘膜に出現する2~5mm程度の水疱
2.水疱は痂皮を形成せずに治癒
○ 上記の基準は必ずしも満たされないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(44)麻疹(成人麻疹を除く)
[定 義]
麻疹ウイルスによる赤い発疹を呈する急性発疹性疾患であり、ここでは成人を除く。
[臨床的特徴]
潜伏期は9~11日であり、症状はカタル期(2~4日)には38℃前後の発熱、咳、鼻汁、くしゃみ、結膜充血、眼脂、羞明などであり、熱が下降した頃に頬粘膜にコプリック斑が出現する。発疹期(3~4日)には一度下降した発熱が再び高熱となりとなり(39~40℃)、特有の発疹が出現する。発疹は耳後部、頸部、顔、体幹、上肢、下肢の順に広がる。回復期(7~9日)には解熱し、発疹は消退し、色素沈着を残す。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の3つの基準を全て満たすもの
1.全身の発疹(回復期には色素沈着を伴う)
2.38.5℃以上の発熱
3.咳嗽、鼻汁、結膜充血などのカタル症状
なお、コプリック斑の出現は診断のための有力な所見となる。
○ 上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(45)伝染性紅斑
[定 義]
ヒトパルボウイルスB19型の感染による紅斑を主症状とする発疹性疾患である。
[臨床的特徴]
幼少児(2~12歳)に多いが、乳児、成人が羅患することもある。潜伏期は4~15日。顔面、とくに頬部に境界明瞭な紅斑が突然出現し、鼻背で融合して蝶型の紅斑になる。つづいて四肢に対側性に小紅斑が出現し、環状又は融合して地図状になる。消退後さらに日光照射、外傷などによって再度出現することがある。発疹の他に発熱、関節痛、咽頭痛、鼻症状、胃腸症状、粘膜疹、リンパ節腫脹、関節炎を合併することがある。予後は通常、良好である。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のも2つの基準を満たすもの
1.左右の頬部の紅斑の出現
2.四肢の網目状の紅斑の出現
○ 上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(46)流行性耳下腺炎
[定 義]
ムンプスウイルス感染による耳下腺の腫脹する感染症である。
[臨床的特徴]
上気道を介する飛沫感染をし、好発年齢は乳児や学童である。潜伏期は2~3週間で、両側又は片側の耳下腺が腫脹し、ものを噛むときに顎に痛みを訴えることが多い。このとき数日の発熱を伴うものが多い。耳下腺腫脹は有痛性で、境界不鮮明な柔らかい腫脹が耳朶を中心として起こる。他の唾液腺の腫脹をみることもある。耳下腺開口部の発赤が認められるが、膿汁の排泄はない。合併症としては、髄膜炎、脳炎、膵炎、難聴などがあり、その他成人男性には睾丸炎、成人女性には卵巣炎がみられることがある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を満たすもの
1.片側ないし両側の耳下腺の突然の腫脹と、2日以上の持続
2.他に耳下腺腫脹の原因がないこと
○ 上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(47)急性出血性結膜炎
[定 義]
エンテロウイルス70型及びコクサッキーウイルスA24亜型の感染によって起こる急性結膜炎である。
[臨床的特徴]
潜伏期は1日で強い眼の痛み、異物感で始まり、結膜の充血、とくに結膜下出血を伴うことが多い。眼瞼の腫脹、眼脂、結膜浮腫、角膜表層のび慢性混濁などがみられ眼痛、異物感がある。約1週間続いて治癒することが多いが、この疾患に罹患したのち6~12か月後に四肢の運動麻痺を来すことがある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の3つの基準のうち2つ以上を満たすもの
1.急性濾胞性結膜炎
2.眼脂、眼痛、異物感などを伴う眼瞼腫脹
3.結膜下出血
○ 上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(48)流行性角膜炎
[定 義]
アデノウイルス8、19、37、4型などによる眼感染症である。
[臨床的特徴]
約1~2週間の潜伏期の後、急性濾胞性結膜炎の臨床症状を示して発病する。結膜の浮腫や充血、眼瞼浮腫が強く、流涙や眼脂を伴う。耳前リンパ節の腫脹と圧痛を来す。角膜にはび慢性表層角膜症がみられ、異物感、眼痛を訴えることがある。偽膜を伴うことも多い。発病後2~3週間で治癒することが多い。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の3つの基準のうち2つ以上を満たすもの
1.重症な急性濾胞性結膜炎
2.角膜点状上皮下混濁
3.耳前リンパ節腫脹・圧痛
○ 上記の基準は必ずしも満たされないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(49)性器クラミジア感染症
[定 義]
Chlamydia trachomatis による性感染症である。
[臨床的特徴]
男性では、尿道から感染して急性尿道炎を起こすが、症状は淋菌感染症よりも軽い。さらに、前立腺炎、副睾丸炎を起こすこともある。女性では、まず子宮頸管炎を起こし、その後、感染が子宮内膜、卵管へと波及し、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤内感染、肝周囲炎をおこす(しかし女性の場合、症状が軽く自覚のないことも多い)。また、子宮外妊娠、不妊、流早産の誘因ともなる。妊婦が感染している場合には、主として産道感染により、新生児に封入体結膜炎を生じさせることがある。また、1~2か月の潜伏期を経て、乳幼児の肺炎を引き起こすことがある。淋菌との混合感染も多く、淋菌感染症の治癒後も尿道炎が続く場合にはクラミジア感染症が疑われる。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの検査による診断がなされたもの
・病原体の検出
例、尿道、性器から採取した材料からの培養、蛍光抗体法など
・病原体の抗原の検出
例、尿道、性器から採取した材料からの酸素抗体法など
・病原体の遺伝子の検出
例、尿道、性器から採取した材料からの検出(PCR法)など
なお、スクリーニングによる病原体・抗原・遺伝子に関する検査陽性例は報告対象に含まれるが、抗体陽性のみの場合は除外する。
(50)性器ヘルペスウイルス感染症
[定 義]
単純ヘルペスウイルス(HSV1型または2型)が感染し、性器またはその付近に発症したものを性器ヘルペスという。
[臨床的特徴]
性器ヘルペスは、外部から入ったウイルスによる初感染の場合と仙髄神経節に潜伏しているウイルスの再活性化による場合の二つがある。
初感染では、感染後3~7日の潜伏期の後に外陰部に小水疱または浅い潰瘍性病変が数個ないし集簇的に出現する。発熱などの全身症状を伴うことが多い。2~4週間で自然に治癒するが、治癒後も月経、性交その他の刺激が誘因となって、再発を繰り返す。再発疹は外陰部のほか、臀部、大腿にも生じる。
病変部位は男性では包皮、冠状溝、亀頭、女性では外陰部や子宮頸部である。HSV2型による場合はより再発しやすい。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の基準を満たすもの
(51)尖形コンジローム
[定 義]
尖形コンジロームは、ヒトパピローマウイルス(ヒト乳頭腫ウイルス、HPV)の感染により、性器周辺に生じる腫脹である。ヒトパピローマウイルスは80種類以上が知られているが、尖形コンジロームの原因となるのは主にHPV6型とHPV11型であり、時にHPV16型の感染でも生じる。
[臨床的特徴]
感染後、数週間から2~3か月を経て、陰茎亀頭、冠状溝、包皮、大小陰唇、肛門周囲等の性器周辺部に、イボ状の小腫瘍が多発する。腫瘍は、先の尖った乳頭状の腫瘤が集簇した独特の形をしており、乳頭状、鶏冠状、花キャベツ状等と形容される。尖形コンジローム自体は、良性の腫瘍であり、自然に治癒することも多いが、時に癌(悪性の腫瘍)に移行することが知られている。特に、HPV16、52、58、18型などに感染した女性の場合、子宮頸部に感染し、子宮頸癌の発癌要因になると考えられている。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の基準を満たすもの
・男女ともに、性器及びその周辺に淡紅色または褐色調の乳頭状、または鶏冠状の特徴的病変を認めるもの
(52)淋菌感染症
[定 義]
淋菌(Neisseria gonorrheae)による性感染症である。
[臨床的特徴]
男性は急性前部尿道炎として発症するのが一般的であるが、放置すると前立腺炎、副睾丸炎となる。後遺症として尿道狭窄が起こる。
女性は子宮頸管炎を起こすが、自覚症状のない場合が多い。感染が上行すると子宮内膜炎、卵管炎、骨盤内感染症を起こし、発熱、下腹痛を来す。後遺症として不妊症が起きる。
その他、喉頭や直腸などへの感染や新生児結膜炎などもある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの検査による診断がなされたもの
○ 上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(53)急性脳炎(日本脳炎を除く)
[定 義]
種々のウイルスなどの感染による脳実質の感染症である。しかし、まだその原因が明らかにされていないところから、炎症所見が明らかではないが同様の症状を呈する脳症もここには含まれる。
[臨床的特徴]
多くは何らかの先行感染を伴い、高熱に続き意識障害やけいれんが突然現れ持続する。髄液細胞数が増加しているものを急性脳炎、正常であるものを急性脳症と診断することが多いが、その臨床症状に差はない。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の3つの基準を全て満たすもの
・発熱
・突然の意識障害
・以下の疾患の鑑別診断
熱性けいれんや代謝性疾患、脳血管性疾患、脳腫瘍、外傷など
(炎症所見が明らかではないが同様の症状を呈する脳症も含まれる)
また、原因となった病原体の検索が望ましく、判明した場合にはその名称についても併せて報告すること。
○ 上記の基準は必ずしも満たされないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
(54)クラミジア肺炎(オウム病を除く)
[定 義]
Chlamydia trachomatis 、Chlamydia pneumoniae の感染による肺炎である。
[臨床的特徴]
いずれも発熱に乏しい下気道感染症である。Chlamydia trachomatis は新生児や乳児に多く主に産道感染で間質性肺炎像を呈することが多く、C.pneumoniae
は飛沫感染により異型肺炎像を呈することが多い。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの。
・病原体の検出
例、気道から病原体(C.trachomatis、またはC.pneumoniae)の検出など
・病原体に対する抗体の検出
例、血清抗体の有意な上昇など
・病原体の抗原の検出
例、蛍光抗体法、酸素抗体法など
なお、原因となる病原体の名称についても併せて報告すること
(55)細菌性髄膜炎
[定 義]
種々の細菌感染による髄膜の感染症である。
[臨床的特徴]
発熱、頭痛、嘔吐を主な特徴とする。項部硬直、Kernig徴候、Brudzinski徴候などの髄膜刺激症状がみられることがあるが、新生児や乳児などではこれらの臨床症状が明らかではないことが多い。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を全て満たすもの
1.以下の臨床症状を呈するもの
・発熱、頭痛、嘔吐を主な特徴とする
・項部硬直、Kernig徴候、Brudzinski徴候などの髄膜刺激症状
(いずれも新生児や乳児などでは臨床症状が明らかではないことが多い)
2.以下の検査所見を有すること
・髄液細胞数の増加(多核球優位であることが多い)
・髄液蛋白量の増加
○ 上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
[備 考]
・原因となる病原体が病原体診断や血清学的診断によって判明した場合には、病原体の名称についても併せて報告すること
(56)ペニシリン耐性肺炎球菌感染症
[定 義]
ペニシリンGに対して耐性のある肺炎球菌による感染症である。
[臨床的特徴]
小児及び成人の化膿性髄膜炎や中耳炎で検出されるが、その他、副鼻腔炎、耳炎、髄膜炎、心内膜炎、心嚢炎、腹膜炎、関節炎、まれに尿路生殖器感染から菌血症を引き起こすこともある。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの。
(1) | 血液、腹水、胸水、髄液など、通常は無菌的であるべき臨床検体から分離された場合(敗血症・心内膜炎、腹膜炎、胸膜炎、髄膜炎、骨髄炎など)で、以下の検査室での判断基準を満たすもの |
(2) | 喀痰、膿、尿、便など無菌的ではない検体からの分離では、感染症の起因菌と判定された場合(肺炎などの呼吸器感染症、肝・胆道系感染症、創傷感染症、腎盂腎炎・複雑性尿路感染症、扁桃炎、細菌性中耳炎・副鼻腔炎、皮膚・軟部組織感染症など)で、以下の検査室での判断基準を満たすもの (検査室での判断基準) ペニシリンのMIC、≧0.125μg/mι または、オキサシリンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が19mm以下 |
(57)マイコプラズマ肺炎
[定 義]
Mycoplasma pneumoniae の感染によって発症する肺炎である。
[臨床的特徴]
好発年齢は、6~12歳の小児であり、小児では発生頻度の高い感染症の一つである。潜伏期は2~3週間とされ、飛沫で感染する。異型肺炎像を呈することが多い。頑固な咳嗽と発熱を主症状に発病し、中耳炎、胸膜炎、心筋炎、髄膜炎などの合併症を併発する症例も報告されている。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの。
・病原体の検出
例、気道から病原体が検出されたものなど
・病検体に対する抗体の検出
例、血清抗体の有意な上昇
血清抗体の異常高値(間接血球凝集反応(IHA)抗体価320~640倍以上、または補体結合反応(CF)抗体価64倍以上)など
(58)成人麻疹
[定 義]
18歳以上の成人に見られる急性麻疹ウイルス感染症である。
[臨床的特徴]
小児の麻疹と同様で、発熱、カタル症状、咳嗽、コプリック斑、色素沈着を残す発疹が特徴である。
[報告のための基準]
○ 18歳以上の成人であって、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの。
・病原体の検出
例、麻疹ウイルスの分離・同定など
・病原体の遺伝子の検出
例、咽頭ぬぐい液、血液からのPCR法による検出など
・病原体に対する抗体の検出
例、血清抗体の有意な上昇など
(59)無菌性髄膜炎
[定 義]
種々のウイルス感染による髄膜の感染症である。
[臨床的特徴]
発熱、頭痛、嘔吐を主な特徴とするが、新生児や乳児などでは臨床症状が明らかではないことが多い。項部硬直、Kernig徴候、Brudzinski徴候などの髄膜刺激症状が見られるが同じく新生児や乳児などではこれらが明らかではないことも多い。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を全て満たすもの
1.以下の臨床症状を呈するもの
2.以下の検査所見を有すること
[備 考]
・原因となる病原体が病原体診断や血清学的診断によって判明した場合には、病原体の名称についても併せて報告すること
(60)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症
[定 義]
メチシリンなどのペニシリン剤をはじめとして、β-ラクタム剤、アミノ配糖体剤、マクロライド剤などの多くの薬剤に対し多剤耐性を示す黄色ブドウ球菌による感染症である。
[臨床的特徴]
外科手術後の患者や免疫不全者、長期抗菌薬投与患者などに日和見感染し、腸炎、敗血症、肺炎などを来し、突然の高熱、血圧低下、腹部膨満、下痢、意識障害、白血球減少、血小板減少、腎機能障害、肝機能障害などの症状を示す。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの。
(1) | 血液、腹水、胸水、髄液など、通常は無菌的であるべき臨床検体から分離された場合(敗血症・心内膜炎、腹膜炎、胸膜炎、髄膜炎、骨髄炎など)で、以下の検査室での判断基準を満たすもの |
(2) |
喀痰、膿、尿、便など無菌的ではない検体からの分離では、感染症の起因菌と判定された場合(肺炎などの呼吸器感染症、肝・胆道系感染症、創傷感染症、腎盂腎炎・複雑性尿路感染症、扁桃炎、細菌性中耳炎・副鼻腔炎、皮膚・軟部組織感染症など)で、以下の検査室での判断基準を満たすもの (検査室での判断基準) オキサシリンのMIC、≧4μg/mι または、オキサシリンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が10mm以下 |
(61)薬剤耐性緑膿菌感染症
[定 義]
ペニシリン剤、β-ラクタム剤等多くの薬剤に対して耐性を示す緑膿菌による感染症である。
[臨床的特徴]
感染防御機能の低下した患者や抗生物質長期使用中の患者に日和見感染し、敗血症や骨髄、気道、尿路、皮膚、軟部組織、耳、眼などに多彩な感染症を起こす。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの。
(1) | 血液、腹水、胸水、髄液など、通常は無菌的であるべき臨床検体から分離された場合(敗血症・心内膜炎、腹膜炎、胸膜炎、髄膜炎、骨髄炎など)で、以下の検査室での判断基準を満たすもの |
(2) | 喀痰、膿、尿、便など無菌的ではない検体からの分離では、感染症の起因菌と判定された場合(肺炎などの呼吸器感染症、肝・胆道系感染症、創傷感染症、腎盂腎炎・複雑性尿路感染症、扁桃炎、細菌性中耳炎・副鼻腔炎、皮膚・軟部組織感染症など)で、以下の検査室での判断基準を満たすもの (検査室での判断基準) 以下の3つの条件を全て満たした場合 ・イミペネムのMIC、≧16μg/mι または、イミペネムの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が13mm以下 ・アミカシンのMIC、≧32μg/mι または、アミカシンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が14mm以下 ・シプロフロキサシンのMIC、≧4μg/mι または、シプロフロキサシンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が15mm以下 |
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