ニ類感染症
(1)急性灰白髄炎
[定 義]
ポリオウイルス1~3型感染による急性運動中枢神経感染症である。
[臨床的特徴]
潜伏期は3~12日で、発熱(3日間程度)、倦怠感、頭痛、嘔気、項部・背部硬直などの髄膜刺激症状を呈するが、軽症例(不全型)では軽い風邪症状または胃腸症状で終わることもある。髄膜炎症状だけで麻痺を来さないもの(非麻痺型)もあるが、重症例(麻痺型)では発熱に引き続きあるいは一旦解熱し再び熱発した後に、突然四肢の随意筋(多くは下肢)の弛緩性麻痺が現れる。罹患部位の腱反射は減弱ないし消失、知覚感覚異常を伴わない。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の方法によって病原体診断がなされたもの。
(材料)便など
・病原体の検出
ポリオウイルスの分離・同定など
[備 考]
(2)コレラ
[定 義]
コレラはコレラ毒素(CT)産生性コレラ菌(Vibrio cholerae O1)またはV.cholerae O139に汚染された飲料水や食品を介した経口感染により、激しい水様性下痢と嘔吐、著しい脱水と電解質の流失をきたす疾病である。
[臨床的特徴]
コレラの潜伏期間は数時間から5日で、通常1日前後である。近年のエルトールコレラは軽症の水様性下痢や軟便で経過することが多いが、まれに「米のとぎ汁」様の便臭のない水様便を1日数リットルから数十リットルも排泄し、激しい嘔吐を繰り返す。その結果、著しい脱水と電解質の消失、チアノーゼ、体重の減少、頻脈、血圧の低下、皮膚の乾燥や弾力性の消失、無尿、虚脱などの症状および低カリウム血症による腓腹筋(ときには大腿筋)の痙攣がおこる。胃切除を受けた人や高齢者では重症になることがあり、また死亡例もまれにみられる。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の方法によって病原体診断がなされたもの。
(材料)便など
・病原体の検出
コレラ菌(V.cholerae O1)またはV.cholerae O139を分離・同定し、かつ、コレラ毒素産生性あるいはコレラ毒素遺伝子の保有が確認された場合
○ 疑似症の診断
臨床所見、コレラ流行地への渡航歴、集団発生の状況などにより判断する
(鑑別診断)食中毒、その他の感染性腸炎等
[備 考]
・法による入院の勧告は、無症状のものは対象とならない。
(3)細菌性赤痢
[定 義]
赤痢菌(Shigella dysenteriae、S.flexneri、S.boydii、S.sonnei)の経口感染で起こる急性感染性大腸炎である。
[臨床的特徴]
潜伏期は1~5日(大多数は3日以内)。主要病変は大腸、特にS状結腸の粘膜の出血性化膿炎、潰瘍を形成することもある。このための発熱、下痢、腹痛を伴うテネスムス(tenesmus;しぶり腹-便意は強いがなかなか排便できない)、膿・粘血便の排泄などの赤痢特有の症状を呈する。近年軽症下痢あるいは無症状に経過する例が多い。症状は一般に成人よりも小児の方が重い。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の方法によって病原体診断がなされたもの。
(材料)便など
・病原体の検出
赤痢菌の分離・同定
○ 疑似症の診断
臨床所見、赤痢流行地への渡航歴、集団発生の状況などにより判断する
(鑑別診断)カンピロバクター、赤痢アメーバ、腸管出血性大腸菌等による他の感染性腸炎等
[備 考]
・法による入院の勧告は、無症状のものは対象とならない。
(4)ジフテリア
[定 義]
ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)の感染による急性感染症である。
[臨床的特徴]
ジフテリア菌が咽頭などの粘膜に感染し、感染部位の粘膜や周辺の軟部組織の障害を引き起こし、扁桃から咽頭粘膜表面の偽膜性炎症、下顎部から前頸部の著しい浮腫とリンパ節腫張(bullneck)などの症状が出現する。重症例では心筋の障害などにより死亡する。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の方法によって病原体診断がなされたもの。
(材料)病変(感染)部位からの採取材料
・病原体の検出
ジフテリア菌の分離と同定、ならびに分離菌におけるジフテリア毒素の検出
・病原体の遺伝子の検出
例、PCR法など
[備 考]
・ジフテリアには疑似症の適用はない。
・法による入院の勧告は、無症状のものは対象とならない。
(5)腸チフス
[定 義]
腸チフスはチフス菌(Salmonella serovar Typhi)の感染による全身性疾患である。
[臨床的特徴]
腸チフスの潜伏期間は7~14日で発熱を伴って発症する。患者、保菌者の糞便と尿が感染源となる。39℃を超える高熱が1週間以上も続き、比較的徐脈、バラ疹、脾腫、下痢などの症状を呈し、腸出血、腸穿孔を起こすこともある。重症例では意識障害や難聴が起きることもある。健康保菌者はほとんどが胆嚢内保菌者であり、胆石保有者や慢性胆嚢炎に合併することが多く、永続保菌者となることが多い。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の方法によって病原体診断がなされたもの。
(材料)末梢血、骨髄液、便、尿、胆汁等
・病原体の検出
チフス菌の分離・培養
○ 疑似症の診断
臨床所見、腸チフス流行地への渡航歴、集団発生の状況などにより判断する
(鑑別診断)マラリア、デング熱、A型肝炎、つつが虫病など
[備 考]
・法による入院の勧告は、無症状のものは対象とならない。
(6)パラチフス
[定 義]
パラチフスはパラチフスA菌(Salmonella serovar Paratyhi A)の感染によって起こる全身性疾患である。(Salmonella
Paratyphi B、Salmonella Paratyphi Cによる感染症はパラチフスから除外され、サルモネラ症として取扱われる)
[臨床的特徴]
臨床的症状は腸チフスに類似する。7~14日の潜伏期間のに38℃以上の高熱が続く。徐脈、脾腫、便秘、時には下痢、等の症状を呈する。症状は腸チフスと比較して、軽症の場合が多い。
[報告のための基準]
○ 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の方法によって病原体診断がなされたもの。
(材料)末梢血、骨髄液、便、尿、胆汁等
・病原体の検出
Salmonella serovar Paratyhi Aの分離・培養
(Salmonella Paratyphi B、Cはサルモネラ症として取り扱う)
○ 疑似症の診断
臨床所見、パラチフス流行地への渡航歴、集団発生の状況などにより判断する
(鑑別診断)マラリア、デング熱、A型肝炎、つつが虫など
[備 考]
・法による入院の勧告は、無症状のものは対象とならない。